POINT
1959年にSASロイヤルホテルのためにデザインされたAJランプシリーズ
SASロイヤルホテル(現ラディソン・ブルー・ロイヤルホテル)のためにデザインされた「AJフロアランプ」「AJテーブルランプ」「AJウォール」、そして「AJロイヤル」は、純粋主義者としてのヤコブセンのデザイン手法を見事に表現されています。簡素なフォルムと半球上部のルーバーで反射、拡散する光のディティールがとても美しく、天井面に向けても光が放たれるため、部屋の雰囲気を豊かなものにしてくれます。3種類のサイズに再編成された名作AJロイヤルは、上部のルーバーが上方にも優しい光を向け、部屋を美しく照らします。下面にディフューザー(光を拡散するカバー)が付属し、グレアのない滑らかな光を届けます。
上方に向けてもスリットから光が漏れるデザイン
1960年に既製品化されたAJ Royal。同じ半球型のシェードの場合、下方のみが照られてるため、天井は暗くなってしまいます。このペンダントは、中央下方向と上方向へと光を届けてくれるのでお部屋を優しい明るさで照らしてくれます。これらはアルネ・ヤコブセンの建築デザインにも共通する要素で構成されており、光を必要とする場所に向けるという非常にシンプルなデザインです。
一切の無駄を削ぎ落とした非の打ちどころのないプロポーション
非の打ちどころのないプロポーション、そして、線・角度・円・円柱を相互作用させた知的デザイン。視覚的調和と静けさを創出しようと強く望んだヤコブセンは、デザインから異質な要素を出来る限り排除しました。「モノの存在が空間の経験に干渉してはならない」というのが彼の持論でした。実際、彼は建築にもインテリアデザインにも同じ態度で取り組み、建築や部屋の室礼、その空間の雰囲気を、一つのまとまった総体とみなしたのです。
SAS Roya Hotel Story~ロイヤルホテルの50年 – もう一つのストーリー ~
SASロイヤルホテル(現ラディソン・ブルー・ロイヤルホテル)の新しい支配人、ロイ・カッペンバーガー氏はこのホテルの18階で生れました。
彼はホテル建設中の当時、ヤコブセンと仕事を共にしたスイス人で、ホテルマネージャーのカッペンバーガー氏の息子であり、子供時代には見習いスタッフのユニホームを着てホテルの中を走り回っていたそうです。
また、彼は世界初の「デザイナーズ・ホテル」として知られるこのホテルに、これまで滞在したロイヤル・ファミリー、政府高官、映画スター、ロック・スターといった著名人たちのこともよく覚えています。
「アルネ・ヤコブセンには洞察力があり、常に時代を先取りしていました」
と、カッペンバーガー氏が言うように、建物自体の設計から、ロビーにあるスパイラル形をしたエレガントな階段、名作と名高いフリッツ・ハンセン社のスワンチェアやエッグチェアはもとより、ドアノブ、客室の引き出し、ステンレス製カトラリーなどのインテリア・デコールのディテールに至るまで、全体をデザインすることで、1960年において既に、統一したブランド経験を生み出しました。
アルネ・ヤコブセンは、人々の考える「ラグジュアリー」という感覚を、大げさに飾り立てる虚飾的豪華さから、控えめなエレガンスへと定義し直そうとしたのです。
「ヤコブセンは、わたしたちのホテルに消すことのできないデザインのDNAを残してくれました。彼のデザインの刻印をこの場所に保つことは、わたしの義務でもあります」とカッペンバーガー氏は語ります。
ロイヤルホテルに、275室ある客室のうち、ルーム606だけはミニチュア・ミュージアムのように今もオリジナルどおりの内装やインテリアを保持しており、デンマークが世界に誇る巨匠アルネ・ヤコブセンの色褪せることのない審美感覚への敬意の印となっています。