「北欧モダニズム」の生みの親
デンマークデザインの巨匠、ヘニング・コッペル
「デンマーク・デザイン」として私たちが今頭に思い浮かべるものを作り上げた人であり、クラシックと呼ばれるものをモダンなデザインへと昇華させることが出来た伝説的なデザイナーです。
人は彼を表現する場合、厳格な機能主義のデザインに対し、有機的で情熱を感じる美しいデザインと呼びます。現に彼は、抑圧された機能ばかりを追い求めず、日々の生活で使うモノ=製品に、美しさと実用性をもたらすことを常に目指していました。
1918年、ユダヤ系の家庭に生まれ、幼少より美術において才能を発揮し、描画や水彩画を学びます。その後、デンマークのコペンハーゲン芸術学院を経て、後にパリで彫刻を学ぶことになりますが、子供の頃に磨かれた彼の卓越した素描の技術は、その後のデザインを表わす多くの傑作を生み出す助けとなり、彼自身も類のない作品を数多く作り上げました。
その後、第二次世界大戦中にスウェーデンに移りますが、27歳の時、デンマークへ帰国。そして、ジョージ・ジェンセン社でデザイナーとして働き始め、ジュエリーやホロウェアウエア、フラットウェアのデザインを手がけました。
最初の作品は、鯨の脊椎と微生物のような形をした一連のネックレスとリンクで連なるブレスレット。それらは、創造力に富んだ立体的モデルでした。革新的な彼のジュエリーは、シルバースミス工房で過去40年間には作られたことのないものばかり。 壮大で美しい形を表現する彼のデザインは、ジョージ・ジェンセン社に新しい風を吹き込みます。
彫刻を思わす有機的で美しいラインは、彫刻家ならではのものであり、彼の有機的で動きを感じさせる強調されたフォルムは、機能主義の厳格な印象を和らげてくれます。
世界中の数多くの家庭で使われているNEW YORK(ニューヨーク)に代表されるステンレス・カトラリーから、1979年のジョージジェンセンの生誕75年を記念したシルバーとクリスタルのシャンデリアまで、驚くほど多岐にわたる作品を残しました。
その後、1950年代のデンマークデザイン黄金時代に、銀器に限らず、Bing & Grøndahl(ビング&グロンダール)の陶磁器や、オレフォスやホルムガードのガラス製品の他、照明やテキスタイルなど数多くのデザインを手掛けています。
惜しくも1981年に63歳でこの世を去ったヘニング・コッペルですが、生前、ミラノトリエンナーレ、国際デザイン大賞、Lunning賞など、多くの賞を受賞しており、現在でも彼の作品が世界中の博物館に数多く展示されています。ですが、表彰より重要なのは、人々は、いまだにヘニング・コッペルがデザインした時計を身に着け、ポットでコーヒーを飲んでいることです。
完成された魅力的な彼のデザイン達は、いまだに生命を宿したまま生き続けており、この先も失われる事なく、彼の物語は永遠に続いていくことでしょう。